竜王戦第一局 二日目

面白かった。その一言に尽きる。


羽生名人、渡辺竜王とも、後で振り返ってほしい焦点の手が数回あった。だがそれはほかの手が納得の最強の手だからであって、逆に目立っただけだし、疑問手というよりは、「わからないから教えてほしい」という感じであった。強い人同士の戦いにありがちな結論でずという展開。とにかく解説も含めて面白かった。解説もほぼ事実上「最強の9段」が集まった感じ。深浦・三浦・谷川・佐藤とは、文句なし。これに森内がいれば完璧だったのではないか。だが、逆に最後の方に関しては広瀬がいてほしかったと本当に思った(王位だからないだろうけど)。渡辺と羽生の終盤の世界はマジで広瀬しか解説できない気がする。

羽生名人の場合 58手目△11歩と68手目△22玉の連動のなさが最大に謎だった。自分から11歩を咎められる筋に持っていった。
渡辺竜王の場合 51手目▲56香でなぜ28香ではなかったのか。どう読んだのかを教えてほしかった。あと、「これはどういうことだ?」の意味も。


それにしても、生粋の渡辺ファンの自分としては、今日の昼過ぎの時点で渡辺は優勢だと思ってるだろうなと感じていた。理由は2日目の昼休憩前後。せっかくなので、渡辺ファンしか知らないであろう渡辺の2日目行動パターンを紹介しよう。
実は渡辺竜王は、竜王になってから2日目の昼休憩に自分の手番で突入したときの勝率が非常に高い。 

渡辺竜王が2日目昼休憩を手番で休んだ局一覧
18期 対木村
第一局 勝利
第二局 勝利
第三局 勝利
第四局 勝利
19期 対佐藤
第一局 敗北
第二局 敗北
第三局 勝利
第六局 敗北
第七局 勝利
20期 対佐藤
第一局 勝利
21期 対羽生
第四局 勝利
22期 対森内
第一局 勝利
第三局 勝利
23期 対羽生
第一局 勝利

11勝3敗。最大のピンチのひとつであった19期を除いて全勝である。
実は渡辺、昼食休憩の時に相手が手番であることが多い。20期、21期なんか1度ずつしか登場していない(佐藤が5回、羽生が6回なのに!)特に最近は顕著であり、逆に2日目の昼食が自分の手番であるときは、必ず1時間くらいの長考をして臨んでいる。そして勝っている。
一番わかりやすいのが22期の第一局ではないか。

http://live.shogi.or.jp/ryuou/kifu_archives/kifu_22/ryuou091110.html
1秒も検討されていなかった角打ち。
「えっ、打ち間違いじゃないですか?」と安用寺六段が確認したように、ちょっと見えにくい手のようだ。
「これは渡辺さんも固まりそうですね」(遠山四段)
「▲3三角ですか。私たちの間をすり抜けていきました」(大野七段)
どうやらこのまま休憩に入りそうだ。先手の狙いは▲2三歩で、これをまともに食らってはいけない。単純に△3四銀と受けるのは▲4二歩がきつく、またそこで受けが悩ましい。
開き直って△3九飛▲8八玉△8五歩▲2三歩△3一銀は、そこで▲8五歩と手を戻されて、渡した歩一枚が響いてくる。「歩の一枚は血の一滴」という言葉もある。
いずれにせよ、渡辺は非常に難しい問題を抱えたまま昼食をとることになりそうだ。
やはりこのまま休憩に入った。森内はスッと席を立ったが、渡辺の動作はスローモーション映像のようだった。頭と体を繋ぎ合わせる回路がうまく働かないのかもしれない。消費時間は森内5時間22分、渡辺5時間14分。昼食は渡辺・しょうゆ五目あんかけラーメン。森内・和洋風弁当。
13時30分となり、対局が再開された。渡辺はすぐに指さず、足を崩している。次の一手はまだ先になりそうだ。

この後、たった3手後に森内はプクっと頬を膨らませ、控え室は脱帽してしまう。つまりこの昼食休憩は、「勝ちだろうから完全読みきりをしよう」という休憩になる。

そして今日。この休憩パターンに非常に似ている気がした。

http://live.shogi.or.jp/ryuou/kifu/ryuou20101014-15.html
文字通り、埋め込むような手つきで△2三金。これで先手の攻めが止まるのであれば、ゆっくり△7六歩が間に合ってくるという算段。
たしかに渡辺の攻め駒は少なく、陣形が平べったいため応援部隊の到着には時間がかかりそうだ。
「あまり時間をかけず△2三金でした。これは勝ちましたと宣言した手に見えます」(佐藤康光九段)
控室の検討は小休止。三浦八段は早咲アマに声をかけて練習将棋を始めた。
「渡辺竜王次の一手ですが、次に△5二歩とされて成香を取られてはいけないので▲2三同馬でしょうか。△同銀に▲5四金から食いついていく感じです。しかしやや細いでしょうか。△2三同銀では同玉も考えられます」(佐藤康光九段)
口頭では▲2三馬△同玉▲3五金、ほかには単に▲1四香と走る手も検討されている。いずれにせよ、渡辺が細い攻めをどう繋いでいくかという場面。
12時28分、渡辺が記録係に「時間に入れてください」と告げ、昼食休憩に入った。消費時間は▲渡辺5時間49分、△羽生5時間6分。渡辺が1日目と同じく皿うどん。羽生は天ぷらそばを注文した。

この時点で既に優勢だと思っており、読みきっちゃおうというノリだったのであろう。
素人渡辺ファンの妄想ですが、そういう見方で第二局以降を見ていただけると、楽しみもひとつ増えるのではないか、と思う。


ちなみに投了図はハート投了 ほらハートが浮かび上がっている!!!